「変貌! 和音と聖歌!2 (前編)」
こんばんは。現在放映中のハピネスチャージプリキュア、見てはいなかったのですが、プリキュアの悪堕ちっぽい展開が期待できそうだったそうです。しかし、堕ちたのが男の方だったようで、残念な展開でした。
それが理由というわけではないのですが、以前に書いたショートストーリー、「変貌! 和音と聖歌!」の続編を書いてみました。前作は短い話でしたが、今回は長くなったので2回に分けてアップします。前編では、官能要素が少し入っています(後編は官能シーンが増える予定です)。
今回のストーリーとは関係ありませんが、「メガハウス 世界制服作戦 桃園ラブ、東せつな」のフィギュアです。すごくキュートに仕上がっているようで、いいですね。2015年1月下旬発売予定です。
それが理由というわけではないのですが、以前に書いたショートストーリー、「変貌! 和音と聖歌!」の続編を書いてみました。前作は短い話でしたが、今回は長くなったので2回に分けてアップします。前編では、官能要素が少し入っています(後編は官能シーンが増える予定です)。
今回のストーリーとは関係ありませんが、「メガハウス 世界制服作戦 桃園ラブ、東せつな」のフィギュアです。すごくキュートに仕上がっているようで、いいですね。2015年1月下旬発売予定です。
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1.対決
風が吹きすさぶ寂しい広場に、異様な雰囲気が漂っていた。キュアメロディとキュアリズムが緊張の面持ちで見つめる先には、ダークキュアビートとダークキュアミューズが腕を組んで不敵に構えている。エレンとアコのキュアモジューレを奪い、西島和音と東山聖歌が変身した姿だ。メロディたちの親友だった二人は、今やノイズの傀儡、いや忠実な僕と化している。さらに二人の後方には、”闇の歌姫”へと変えられたエレンとアコが黒いドレスに身を包み、無表情で佇んでいた。
前を向いたままメロディがリズムに囁く。
「わたしが和音から音符を取り戻す、リズムは聖歌先輩をお願い」
「分かったわ」
阿吽の呼吸で二人は飛び出した。予期していたように、ダークプリキュアの二人も左右に分かれて走り出す。メロディはダークビートと、リズムはダークミューズと、それぞれ一対一で対峙する。
「和音! 目を覚ましてっ!」
メロディは懇願するようにダークビートに向かって叫ぶ。しかし、ダークビートは涼しい顔だ。斜に構えて片目だけを見開く。
「変身しているんだからビートって呼んでよ。もちろん、ダークビート様でもいいわよ。それにね、メロディの相手はあたしじゃないわ」
「えっ!?」
いつの間にかメロディの左右に、アコとエレンが音も無く移動していた。その表情は相変わらず生気に乏しい。そして二人は声をあげた。
「ああぁーっ!!・・・・」
メロディは思わずしゃがみ込み、耳を両手で押さえる。それは不幸のメロディ。完全ではないものの聞く者にダメージを与えることはできる。
「なんだ、これだけで動けなくなっちゃうの?」
ダークビートには心地よく聞こえる不幸のメロディ。余裕をもって上からメロディを見下す。
「それじゃあ、あたしはミューズを手伝って来るわ。メロディは、その後で可愛がってあげる」
「あっ!・・・ま、待って・・・・」
手をひらひらと振りながら立ち去るダークビート。
一方、キュアリズムはダークミューズによって後ろから羽交い締めにされていた。
「あたしに勝てると思ってるの?リズム」
唇を吊り上げながら、勝ち誇るように耳元で囁くダークミューズ。
「う、うぅっ! ・・・やめて、聖歌先輩・・・」
「ミューズって呼びなさいよ。むかつくわね」
ダークミューズが締め付ける力を強くする。
「ああっ!」
悲鳴をあげるリズム。その眼前にダークビートが立ちはだかった。
「いいざまね、リズム。では、音符をもらうわね」
「あっ!やめてっ!」
ダークビートの指がリズムのキュアモジューレに伸びると、指先から稲妻のような青い光が発せられた。
「あぁっ!!」
キュモジューレが衝撃で外れ、ダークビートの手中に収まった。同時にリズムは変身が解けて奏の姿に戻る。ダークミューズは、奏にもう用は無いとばかりに前に強く突き放した。地面に俯せに倒れ込む奏。
「ううっ・・・」
全身に痺れが生じ、体を動かせないようだ。
一方、ダークビートは掌上のキュアモジューレに指先を伸ばす。
「さあ、音符を頂くよ」
リズムのフェアリートーンから音符が抜かれ、それは不幸のメロディの楽譜へと吸い込まれていった。
「うふふ、これであと一個ね」
そう呟きながら、苦しんでいるメロディに視線を移すダークビート。
ダークビートとダークミューズは目を合わせて頷き合うと、メロディに向かって歩み出した。
そのとき、ダークミューズの足首を掴む手があった。奏がなんとか力を振り絞り、阻止しようとしているのだ。
「メロディの音符は渡せない・・・逃げて、メロディっ!」
奏の様子を見下すダークミューズは、眥をピクリと動かすと、冷徹に脚を振り上げ、メロディ手をふりほどいた。
「ふん、邪魔ね」
だが、それでも、奏は諦めない。再び腕を伸ばしブーツを掴もうとする。
「もう、しつこいっ!」
「メロディ・・・響だけでも逃げ延びて・・・ここはわたしが・・」
「そんな変身もできない姿で、何が出来るのよ」
ダークビートがかがんでメロディの胸座を掴むと、そのまま片手で体を持ち上げて転がすように放り投げた。地面に叩きつけられた奏は、そのまま気を失ってしまう。
ダークミューズが冷徹に目を細め、言い放つ。
「ふん、美しい友情ね。でも、あなたたちがそんなだから私たちが大変だったのよ」
複雑な表情を見せながら、ダークプリキュアの二人は、再びメロディに向かって脚を進めた。
「もういいわ、セイレーン、アコ」
ダークミューズの命令で、エレンとアコは歌うのを止める。
「うっ・・・」
よろよろと立ち上がるメロディは満身創痍という雰囲気だ。ダークプリキュアと二対一では、不利なのが明らかである。
「さあ、もう終わりだよ」
ダークビートが楽しそうに声をかけたそのとき、突然、ハミィが立ち塞がった。
「メロディの音符は渡さないにゃ!」
そう言うと、高く清らかな声で歌い始めた。
「くっ! なによ、これ!」
「まさか幸福のメロディ!?」
場を圧倒するハミィの声。音圧にダークプリキュアが後ずさる。その優しい旋律は幸福のメロディではないが、メイジャーランドに幸せをもたらす音楽としてハミィが歌ってきたものだ。その聖なる声は、ノイズの力をある程度、削ぐことができた。
(・・・あ、ありがとう、ハミィ)
メロディが心の中で感謝する。
その一方でダークプリキュアの二人は耳を手で塞ぎ、ハミィの影響から逃れようとする。もっとも、この状況の中でも、知略に長けたダークミューズは次なる策を思案していた。
(ここで、アコとセイレーンに歌わせて対決させてもいいけど長引きそうね。それよりは・・・)
ダークミューズの唇がニヤリと歪む。
「ビート、いったんここは退くわよ」
「え? 音符はあと一つだよ」
「ここで消耗する必要は無いわ。先に、あの計画を実施しましょう」
「・・なるほど、いいわね」
ダークビートも邪な笑みを見せる。ダークビートはハミィとメロディに向かって言い放つ。
「なかなかやるわね、ハミィ。メロディは全然だめだけど、あんたの力に免じて、ここは見逃してあげる」
ダークミューズが続ける。
「ただし、これは頂いていくわよ」
ダークミューズは、気を失った奏の体を抱きかかえていた。
「あっ、奏!」
「うふふ、一人でどこまで出来るか、頑張ってみなさい」
「次に会ったときが、メロディの最後だよ」
そう台詞を残すと、不敵な笑みを浮かべながらダークプリキュアの二人は、その場から消えていった。エレンとアコ、そして奏も共に。
「奏っ! エレン、アコ・・・なんでこんなことに・・・」
唖然として佇むキュアメロディとハミィだけが、その場に取り残されていた。
2.回想
次なる計画のため、ダークプリキュアたちは闇の中を移動していた。ダークミューズは憮然とした表情を浮かべている。それは響と奏がお互いを庇い合う姿を見たからだ。ダークミューズとなった聖歌にとって、それはもっとも唾棄すべき振る舞い。彼女は脳裏に昨日のことを思い浮かべていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
紅い夕焼けに染まる街中を、聖歌は部活を終えて家路についていた。街中を過ぎると、池や森の広がる大きな公園があり、その中を通学路として利用としている。その公園入口で、聖歌は見知った顔と遭遇した。
「あら、西島さん」
「あ、聖歌先輩」
「帰宅するところ? 家は同じ方向かしらね?」
聖歌が目を前方に向ける
「え? ええ、そうですね」
「それでは、一緒に帰りましょう」
公園の中を、肩を並べて歩く二人。だが、和音はどことなく元気がない。
「どうかしたの? 西島さん」
「え・・・別になんでも・・・」
そう言っていた和音だが、しだいに口を開いた。曰く、サッカーの試合があったのだが、負けてしまった。親友の響がいれば、きっと勝てたのにと。
「最近、響は何か忙しそうで、サッカーばかりじゃなくて遊びにも付き合ってくれないんです。あたし嫌われてるのかな・・・」
「そ、そんなことないわよ。響さんは、今、なにか大切なことがあるのじゃないかしら?」
そう慰める聖歌だが、その表情が沈んでいく。
「・・・実は、私が部長をしているスイーツ部もね、南野さんが、最近、休んでばかりなの」
「え、奏が?」
「うん。南野さんはお菓子が大好きだし、家もケーキショップでしょう。部活に来ない理由が分からないの・・・」
「・・・聖歌先輩・・・」
「やっぱり、部長の私がいけないのかしら?・・・魅力的な活動ができてないのかしら・・・」
「そ、そんなことないですよ! 聖歌先輩が悪いわけじゃない・・・」
今度は、和音が慰め役に回る。しかし、目が合うと、二人とも深いため息をついた。
そのとき、二人に不気味な声が響いてきた。
《・・・そうだ、悪いのはおまえたちではない・・・》
「え!?、なに?」
「変な声・・・」
周りを見渡す二人。だが、夕暮れの公園に人影は無い。オウムのような小鳥が一羽、頭上を飛んでいるだけだ。
《・・・ふふふ、見せてやろう。お前たちの友達が何をしているか・・・》
再び声が響き、戸惑う二人。改めて周りをきょろきょろと見回す。その次の瞬間、二人の周りを透明な物体が覆った。
「え!?」
「なに、これ!?」
二人を囲んだのは円筒状の透明なカプセルだ。突然、天空から落下してきたカプセルに、二人は為す術無く閉じ込められる形となった。頭上を旋回していた鳥が、カプセルの天井部でちょこんと羽根を休めている。
「た、助けてっ!」
「出してーっ!!」
カプセルの内側をドンドンと叩き、助けを求める二人。しかし、カプセルの材質は堅く、彼女らの力ではどうすることも出来ない。すると、カプセルの色が不透明に変色し、内側全面に映像が映し出された。マルチモニターのように、いくつもの映像がタイル状に並んでいる。同時に妖しげな旋律がBGMのように響いて、カプセル内の空気を振動させた。
「なに? この映像・・」
そこには、異形の怪物と戦う、二人の少女の姿があった。ピンクとホワイトのコスチュームに身を包んだ姿は、和音と聖歌にとってよく見知った人物だ。
「響じゃない?!」
「南野さんっ!」
キュアメロディとキュアリズムがネガトーンと戦う姿、これまでの彼女らの活躍が映し出されているようだ。
《・・・見ろ、お前たちの親友は、いや、親友だった二人は、仲良くこんなことをしているのだ・・・》
「・・・・・」
手を取り合うメロディとリズム。激しい攻撃を庇い合う二人。息の合った合体技を繰り出す二人。そして勝利のあとの満面の笑顔。
《響と奏の二人はプリキュアという戦士となって、このようにネガトーンをいたぶっているのだ・・・》
「・・プリキュア・・・」
「・・ネガトーン・・・」
その映像を見ていた聖歌と和音の心には、これまでに思ったこともない感情がわき上がっていた。自分を置いて、二人でこんなことをしているなんて・・・ それは嫉妬と憎悪にまみれた邪悪な気持ちだった。
《どうだ、あの二人が憎いか?・・・》
謎の声が、聖歌と和音に問いかける。
「・・・悔しい・・・」
「・・・あたしを置いて、なんで奏と・・・」
普段の聖歌と和音ならば、このような気持ちが込み上げるはずは無い。しかしカプセル内を満たす妖異な旋律は、心の片隅に芽生えたほんのわずかな疑念を強制的に増幅し、感情を変質させてしまう邪悪な効果を持っていた。知らず知らずのうちに二人の心は、邪な負の感情に染められていく。
「・・・憎い、響が憎い・・・」
「・・・許せないわ、南野さん・・・」
二人の表情は強張り、瞳には憎しみの感情が灯りだしていた。
《そうだ、憎かろう。どうだ、その気持ちを晴らすためには、我に仕えるのだ》
「・・・あなたに仕えれば?」
《我が僕となれば、あの二人に打ち勝つ力を授けよう》
変質させられた聖歌と和音の心は、邪な力を欲するようになっていた。そして禁断の言葉を口にしてしまう。
「・・・あなたに仕える・・・だから力を頂戴!」
「・・・響と奏、憎いあの二人を倒す力をっ!」
《よかろう。我が名はノイズ! 我の僕となれっ!》
その言葉と同時に、カプセル内に妖異な旋律が大音量で響き渡った。普通の人間なら発狂するような奇怪な不協和音だ。だが、邪悪に汚染された和音と聖歌にとって、それは果てしなく甘美で、エクスタシーさえも醸し出す至高のサウンドだった。
「ああっ、ノイズ様っ!」
「すごいっ! ノイズ様が漲っているーっ!」
耳だけで無く、全身の毛穴の一つ一つにまで染みこんでくるノイズのサウンド。今まで見せたこともない陶酔の表情でそれを受け入れていく和音と聖歌。次第にカプセル内の気体の密度が高くなっていく。それは霧と化し、さらには液体へと変わっていく。液中に反響するサウンドの中、その液体も彼女らの躰に染みこんでいき、心も躰も、全てがノイズに侵食されていく。
「あぁっ! 最高っ!」
「ノイズ様ーっ!」
絶叫しながら恍惚の表情を浮かべる和音と聖歌。ノイズに汚染されていくことは、二人にとって至高の快楽だ。
「あっ、なんか変っ! ・・・あ、いやっ!・・・いいっ!」
「来るっ! なんか、来てるっ! ・・・イクッ!イっちゃうっ!!」
躰を痙攣させて悶える聖歌と和音。脳裏に電気が走り、快楽の波がハレーションを起こして押し寄せる。これまでに感じたことのない絶頂という感覚が彼女らに刻まれたとき、カプセルに無数のヒビが入り粉々に砕けちった。悶絶したまま地面に俯せに倒れる二人。いつの間にかカプセルの破片と液体は消えていき、彼女らの服もすぐに乾いていく。
《ふふふふ、さあ立て、我が僕たちよ。まずは音符を奪うのだ・・・》
謎の声が命令を授ける、そして次第にその声は小さくなっていった。同時に頭上を飛んでいたオウムのような鳥も姿を消した。
倒れていた和音と聖歌は目を覚ますと、何事もなかったようにすくっと立ち上がる。目を合わせると聖歌が口を開く。
「さあ、行きましょう、和音。これからよろしくね」
「はい、聖歌先輩」
二人の表情は一変していた。天真爛漫な笑顔がチャームポイントの和音、上品な笑みを浮かべていた聖歌、それが、どちらも邪悪で歪んだ笑みに変わっていた。その瞳には挑発的な妖しい光が灯っている。ちょうど日が沈み、あたりは闇に包まれようとしていた。その闇の中へ二人は並んで歩き出した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(エレンとアコは、既にあたしたちの傀儡。でもね、もっともっと裏切られる気持ちを味あわせてあげるわよ、奏に響)
ダークミューズは口元に邪な笑みを浮かべた。
(続く)
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続きは近日中にアップしたいと思います。
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1.対決
風が吹きすさぶ寂しい広場に、異様な雰囲気が漂っていた。キュアメロディとキュアリズムが緊張の面持ちで見つめる先には、ダークキュアビートとダークキュアミューズが腕を組んで不敵に構えている。エレンとアコのキュアモジューレを奪い、西島和音と東山聖歌が変身した姿だ。メロディたちの親友だった二人は、今やノイズの傀儡、いや忠実な僕と化している。さらに二人の後方には、”闇の歌姫”へと変えられたエレンとアコが黒いドレスに身を包み、無表情で佇んでいた。
前を向いたままメロディがリズムに囁く。
「わたしが和音から音符を取り戻す、リズムは聖歌先輩をお願い」
「分かったわ」
阿吽の呼吸で二人は飛び出した。予期していたように、ダークプリキュアの二人も左右に分かれて走り出す。メロディはダークビートと、リズムはダークミューズと、それぞれ一対一で対峙する。
「和音! 目を覚ましてっ!」
メロディは懇願するようにダークビートに向かって叫ぶ。しかし、ダークビートは涼しい顔だ。斜に構えて片目だけを見開く。
「変身しているんだからビートって呼んでよ。もちろん、ダークビート様でもいいわよ。それにね、メロディの相手はあたしじゃないわ」
「えっ!?」
いつの間にかメロディの左右に、アコとエレンが音も無く移動していた。その表情は相変わらず生気に乏しい。そして二人は声をあげた。
「ああぁーっ!!・・・・」
メロディは思わずしゃがみ込み、耳を両手で押さえる。それは不幸のメロディ。完全ではないものの聞く者にダメージを与えることはできる。
「なんだ、これだけで動けなくなっちゃうの?」
ダークビートには心地よく聞こえる不幸のメロディ。余裕をもって上からメロディを見下す。
「それじゃあ、あたしはミューズを手伝って来るわ。メロディは、その後で可愛がってあげる」
「あっ!・・・ま、待って・・・・」
手をひらひらと振りながら立ち去るダークビート。
一方、キュアリズムはダークミューズによって後ろから羽交い締めにされていた。
「あたしに勝てると思ってるの?リズム」
唇を吊り上げながら、勝ち誇るように耳元で囁くダークミューズ。
「う、うぅっ! ・・・やめて、聖歌先輩・・・」
「ミューズって呼びなさいよ。むかつくわね」
ダークミューズが締め付ける力を強くする。
「ああっ!」
悲鳴をあげるリズム。その眼前にダークビートが立ちはだかった。
「いいざまね、リズム。では、音符をもらうわね」
「あっ!やめてっ!」
ダークビートの指がリズムのキュアモジューレに伸びると、指先から稲妻のような青い光が発せられた。
「あぁっ!!」
キュモジューレが衝撃で外れ、ダークビートの手中に収まった。同時にリズムは変身が解けて奏の姿に戻る。ダークミューズは、奏にもう用は無いとばかりに前に強く突き放した。地面に俯せに倒れ込む奏。
「ううっ・・・」
全身に痺れが生じ、体を動かせないようだ。
一方、ダークビートは掌上のキュアモジューレに指先を伸ばす。
「さあ、音符を頂くよ」
リズムのフェアリートーンから音符が抜かれ、それは不幸のメロディの楽譜へと吸い込まれていった。
「うふふ、これであと一個ね」
そう呟きながら、苦しんでいるメロディに視線を移すダークビート。
ダークビートとダークミューズは目を合わせて頷き合うと、メロディに向かって歩み出した。
そのとき、ダークミューズの足首を掴む手があった。奏がなんとか力を振り絞り、阻止しようとしているのだ。
「メロディの音符は渡せない・・・逃げて、メロディっ!」
奏の様子を見下すダークミューズは、眥をピクリと動かすと、冷徹に脚を振り上げ、メロディ手をふりほどいた。
「ふん、邪魔ね」
だが、それでも、奏は諦めない。再び腕を伸ばしブーツを掴もうとする。
「もう、しつこいっ!」
「メロディ・・・響だけでも逃げ延びて・・・ここはわたしが・・」
「そんな変身もできない姿で、何が出来るのよ」
ダークビートがかがんでメロディの胸座を掴むと、そのまま片手で体を持ち上げて転がすように放り投げた。地面に叩きつけられた奏は、そのまま気を失ってしまう。
ダークミューズが冷徹に目を細め、言い放つ。
「ふん、美しい友情ね。でも、あなたたちがそんなだから私たちが大変だったのよ」
複雑な表情を見せながら、ダークプリキュアの二人は、再びメロディに向かって脚を進めた。
「もういいわ、セイレーン、アコ」
ダークミューズの命令で、エレンとアコは歌うのを止める。
「うっ・・・」
よろよろと立ち上がるメロディは満身創痍という雰囲気だ。ダークプリキュアと二対一では、不利なのが明らかである。
「さあ、もう終わりだよ」
ダークビートが楽しそうに声をかけたそのとき、突然、ハミィが立ち塞がった。
「メロディの音符は渡さないにゃ!」
そう言うと、高く清らかな声で歌い始めた。
「くっ! なによ、これ!」
「まさか幸福のメロディ!?」
場を圧倒するハミィの声。音圧にダークプリキュアが後ずさる。その優しい旋律は幸福のメロディではないが、メイジャーランドに幸せをもたらす音楽としてハミィが歌ってきたものだ。その聖なる声は、ノイズの力をある程度、削ぐことができた。
(・・・あ、ありがとう、ハミィ)
メロディが心の中で感謝する。
その一方でダークプリキュアの二人は耳を手で塞ぎ、ハミィの影響から逃れようとする。もっとも、この状況の中でも、知略に長けたダークミューズは次なる策を思案していた。
(ここで、アコとセイレーンに歌わせて対決させてもいいけど長引きそうね。それよりは・・・)
ダークミューズの唇がニヤリと歪む。
「ビート、いったんここは退くわよ」
「え? 音符はあと一つだよ」
「ここで消耗する必要は無いわ。先に、あの計画を実施しましょう」
「・・なるほど、いいわね」
ダークビートも邪な笑みを見せる。ダークビートはハミィとメロディに向かって言い放つ。
「なかなかやるわね、ハミィ。メロディは全然だめだけど、あんたの力に免じて、ここは見逃してあげる」
ダークミューズが続ける。
「ただし、これは頂いていくわよ」
ダークミューズは、気を失った奏の体を抱きかかえていた。
「あっ、奏!」
「うふふ、一人でどこまで出来るか、頑張ってみなさい」
「次に会ったときが、メロディの最後だよ」
そう台詞を残すと、不敵な笑みを浮かべながらダークプリキュアの二人は、その場から消えていった。エレンとアコ、そして奏も共に。
「奏っ! エレン、アコ・・・なんでこんなことに・・・」
唖然として佇むキュアメロディとハミィだけが、その場に取り残されていた。
2.回想
次なる計画のため、ダークプリキュアたちは闇の中を移動していた。ダークミューズは憮然とした表情を浮かべている。それは響と奏がお互いを庇い合う姿を見たからだ。ダークミューズとなった聖歌にとって、それはもっとも唾棄すべき振る舞い。彼女は脳裏に昨日のことを思い浮かべていた。
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紅い夕焼けに染まる街中を、聖歌は部活を終えて家路についていた。街中を過ぎると、池や森の広がる大きな公園があり、その中を通学路として利用としている。その公園入口で、聖歌は見知った顔と遭遇した。
「あら、西島さん」
「あ、聖歌先輩」
「帰宅するところ? 家は同じ方向かしらね?」
聖歌が目を前方に向ける
「え? ええ、そうですね」
「それでは、一緒に帰りましょう」
公園の中を、肩を並べて歩く二人。だが、和音はどことなく元気がない。
「どうかしたの? 西島さん」
「え・・・別になんでも・・・」
そう言っていた和音だが、しだいに口を開いた。曰く、サッカーの試合があったのだが、負けてしまった。親友の響がいれば、きっと勝てたのにと。
「最近、響は何か忙しそうで、サッカーばかりじゃなくて遊びにも付き合ってくれないんです。あたし嫌われてるのかな・・・」
「そ、そんなことないわよ。響さんは、今、なにか大切なことがあるのじゃないかしら?」
そう慰める聖歌だが、その表情が沈んでいく。
「・・・実は、私が部長をしているスイーツ部もね、南野さんが、最近、休んでばかりなの」
「え、奏が?」
「うん。南野さんはお菓子が大好きだし、家もケーキショップでしょう。部活に来ない理由が分からないの・・・」
「・・・聖歌先輩・・・」
「やっぱり、部長の私がいけないのかしら?・・・魅力的な活動ができてないのかしら・・・」
「そ、そんなことないですよ! 聖歌先輩が悪いわけじゃない・・・」
今度は、和音が慰め役に回る。しかし、目が合うと、二人とも深いため息をついた。
そのとき、二人に不気味な声が響いてきた。
《・・・そうだ、悪いのはおまえたちではない・・・》
「え!?、なに?」
「変な声・・・」
周りを見渡す二人。だが、夕暮れの公園に人影は無い。オウムのような小鳥が一羽、頭上を飛んでいるだけだ。
《・・・ふふふ、見せてやろう。お前たちの友達が何をしているか・・・》
再び声が響き、戸惑う二人。改めて周りをきょろきょろと見回す。その次の瞬間、二人の周りを透明な物体が覆った。
「え!?」
「なに、これ!?」
二人を囲んだのは円筒状の透明なカプセルだ。突然、天空から落下してきたカプセルに、二人は為す術無く閉じ込められる形となった。頭上を旋回していた鳥が、カプセルの天井部でちょこんと羽根を休めている。
「た、助けてっ!」
「出してーっ!!」
カプセルの内側をドンドンと叩き、助けを求める二人。しかし、カプセルの材質は堅く、彼女らの力ではどうすることも出来ない。すると、カプセルの色が不透明に変色し、内側全面に映像が映し出された。マルチモニターのように、いくつもの映像がタイル状に並んでいる。同時に妖しげな旋律がBGMのように響いて、カプセル内の空気を振動させた。
「なに? この映像・・」
そこには、異形の怪物と戦う、二人の少女の姿があった。ピンクとホワイトのコスチュームに身を包んだ姿は、和音と聖歌にとってよく見知った人物だ。
「響じゃない?!」
「南野さんっ!」
キュアメロディとキュアリズムがネガトーンと戦う姿、これまでの彼女らの活躍が映し出されているようだ。
《・・・見ろ、お前たちの親友は、いや、親友だった二人は、仲良くこんなことをしているのだ・・・》
「・・・・・」
手を取り合うメロディとリズム。激しい攻撃を庇い合う二人。息の合った合体技を繰り出す二人。そして勝利のあとの満面の笑顔。
《響と奏の二人はプリキュアという戦士となって、このようにネガトーンをいたぶっているのだ・・・》
「・・プリキュア・・・」
「・・ネガトーン・・・」
その映像を見ていた聖歌と和音の心には、これまでに思ったこともない感情がわき上がっていた。自分を置いて、二人でこんなことをしているなんて・・・ それは嫉妬と憎悪にまみれた邪悪な気持ちだった。
《どうだ、あの二人が憎いか?・・・》
謎の声が、聖歌と和音に問いかける。
「・・・悔しい・・・」
「・・・あたしを置いて、なんで奏と・・・」
普段の聖歌と和音ならば、このような気持ちが込み上げるはずは無い。しかしカプセル内を満たす妖異な旋律は、心の片隅に芽生えたほんのわずかな疑念を強制的に増幅し、感情を変質させてしまう邪悪な効果を持っていた。知らず知らずのうちに二人の心は、邪な負の感情に染められていく。
「・・・憎い、響が憎い・・・」
「・・・許せないわ、南野さん・・・」
二人の表情は強張り、瞳には憎しみの感情が灯りだしていた。
《そうだ、憎かろう。どうだ、その気持ちを晴らすためには、我に仕えるのだ》
「・・・あなたに仕えれば?」
《我が僕となれば、あの二人に打ち勝つ力を授けよう》
変質させられた聖歌と和音の心は、邪な力を欲するようになっていた。そして禁断の言葉を口にしてしまう。
「・・・あなたに仕える・・・だから力を頂戴!」
「・・・響と奏、憎いあの二人を倒す力をっ!」
《よかろう。我が名はノイズ! 我の僕となれっ!》
その言葉と同時に、カプセル内に妖異な旋律が大音量で響き渡った。普通の人間なら発狂するような奇怪な不協和音だ。だが、邪悪に汚染された和音と聖歌にとって、それは果てしなく甘美で、エクスタシーさえも醸し出す至高のサウンドだった。
「ああっ、ノイズ様っ!」
「すごいっ! ノイズ様が漲っているーっ!」
耳だけで無く、全身の毛穴の一つ一つにまで染みこんでくるノイズのサウンド。今まで見せたこともない陶酔の表情でそれを受け入れていく和音と聖歌。次第にカプセル内の気体の密度が高くなっていく。それは霧と化し、さらには液体へと変わっていく。液中に反響するサウンドの中、その液体も彼女らの躰に染みこんでいき、心も躰も、全てがノイズに侵食されていく。
「あぁっ! 最高っ!」
「ノイズ様ーっ!」
絶叫しながら恍惚の表情を浮かべる和音と聖歌。ノイズに汚染されていくことは、二人にとって至高の快楽だ。
「あっ、なんか変っ! ・・・あ、いやっ!・・・いいっ!」
「来るっ! なんか、来てるっ! ・・・イクッ!イっちゃうっ!!」
躰を痙攣させて悶える聖歌と和音。脳裏に電気が走り、快楽の波がハレーションを起こして押し寄せる。これまでに感じたことのない絶頂という感覚が彼女らに刻まれたとき、カプセルに無数のヒビが入り粉々に砕けちった。悶絶したまま地面に俯せに倒れる二人。いつの間にかカプセルの破片と液体は消えていき、彼女らの服もすぐに乾いていく。
《ふふふふ、さあ立て、我が僕たちよ。まずは音符を奪うのだ・・・》
謎の声が命令を授ける、そして次第にその声は小さくなっていった。同時に頭上を飛んでいたオウムのような鳥も姿を消した。
倒れていた和音と聖歌は目を覚ますと、何事もなかったようにすくっと立ち上がる。目を合わせると聖歌が口を開く。
「さあ、行きましょう、和音。これからよろしくね」
「はい、聖歌先輩」
二人の表情は一変していた。天真爛漫な笑顔がチャームポイントの和音、上品な笑みを浮かべていた聖歌、それが、どちらも邪悪で歪んだ笑みに変わっていた。その瞳には挑発的な妖しい光が灯っている。ちょうど日が沈み、あたりは闇に包まれようとしていた。その闇の中へ二人は並んで歩き出した。
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(エレンとアコは、既にあたしたちの傀儡。でもね、もっともっと裏切られる気持ちを味あわせてあげるわよ、奏に響)
ダークミューズは口元に邪な笑みを浮かべた。
(続く)
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続きは近日中にアップしたいと思います。
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